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文学の快楽ー私的読書案内
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仁木悦子『穴』
 あらゆる点できわめて上質な推理サスペンスである。推理サスペンスの教科書のようだなどと書くと、無味乾燥な印象を与えるかもしれないが、収録作品はどれもシンプルだがコクのある短篇で、この種の小説のすぐれたお手本ともいうべきものだろう。また、殺人など陰惨な事件が起きるにもかかわらず読後の後味がすこぶるよいのは、文章がよく練られており、文体に夾雑物がまじっていなからだろう。ほんとうにすぐれた短篇推理小説だ。 (仁木悦子『穴』講談社文庫) 穴 (1979年) ...続きを見る

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2007/06/07 01:20
オーシュ卿(G・バタイユ)『<初稿>眼球譚』
 卵や眼球のイメージ、<球体幻想>の禍々しい美しさに魅せられた後で、『眼球譚』について、二十世紀最大の衝撃作、暗黒文学、異端文学の傑作、問題作と紹介するのは容易いが虚しい。しかし、『眼球譚』とは何なのか、いざ何か語ろうとしても、言葉が出てこないのだ。そこで、訳者により解説文の中に引用されていた『聖餐城』の作者ベルナール・ノエルの言葉を孫引きさせてもらおう。「『眼球譚』が読者を戸惑わせるわけは、一般に沈黙を強いられる事柄を物語っているからではない。この小説が戸惑わせるいわれは、この沈黙に抗してその... ...続きを見る

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2007/05/10 03:56
ジャック・ロンドン『試合ーボクシング小説集』
 『野生の呼び声』や『白い牙』といった犬を主人公にした小説の作者としてしかジャック・ロンドンを知らない読者は不幸である。威張れるほどのロンドンの愛読者ではないけれども、やはり同じ現代教養文庫から同じ訳者による翻訳で読める『どん底の人びと』は、20世紀初頭の英国はロンドンの貧民街に潜入して書いた迫真のルポルタージュであり、本書『試合』はロンドンのボクサーたちを主人公にした小説集で、広い意味でスポーツ小説といえよう。ボクシングを題材に小説を書いた作家といえば、寡聞にしてコナン・ドイルぐらいしか知らな... ...続きを見る

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2007/05/09 04:35
パヴェーゼ『故郷』
 本作は1940年代のイタリアに台頭したネオレアリズモ文学の原点に位置する作品だという。訳者が解説で引用しているカルヴィーノの文章によれば、ナチュラリズムとは一線を画すようだが、訳文の調子から判断するかぎり(パヴェーゼは方言を使って書いているわけではないと訳者は言明している)、また、小説の舞台になった北イタリアのモンティチェッロの風景と人びとの生活の描写を読むかぎり、ナチュラリズムの小説を想起せざるを得なかった。しかし、パヴェーゼがアメリカ文学に影響を受け、翻訳も行っていたことを知ってみると、後... ...続きを見る

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2007/05/09 03:59
高橋順子編『一茶 生きもの句帖』
 「痩蛙負けるな一茶是に有り」「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」「やれ打つな蠅が手を摺り足をする」など一茶は小さな生きものに自己を投影した名句を多く残したが、本書は一茶が詠んだありとあらゆる生きものの句から480句を選んで、美しい写真とともに紹介しており、解説も簡にして要を得ている。それにしても、一茶が生きものに対して一様な愛情ではなく、様々な愛情(場合によっては憎しみや蔑視も含まれる)を向けていることは尋常なことではなく、一茶が生きものを詠めば詠むほど、生きものでも人間という生きものたちに対... ...続きを見る

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2007/04/08 23:44
ロープシン『蒼ざめた馬』
 作者ロープシン(本名ボリス・サヴィンコフ)自身もまた帝政時代から革命後のロシアにおいてテロ活動を行った人物のようだが、現実の過酷な政治の世界に身を置いていた作家の小説にしては、どこまでもロマンチックで、薄明のモスクワやペテルスブルグに身を潜めながら提督の暗殺をねらう主人公ジョージや彼をとりまくテロリストの群像にも、哀愁の影が濃い。革命と愛の相克をテーマにした小説であるとか、テロリストもまた人間であったとか、つまらない感想を述べるつもりはないが、孤独でニヒルな主人公ジョージは明らかにラスコーリニ... ...続きを見る

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2007/03/30 12:18
リチャード・ブローティガン『ビッグ・サーの南軍将軍』
 ブローディガンはかつて「夢のカリフォルニア」の作家として人気を博していたが、時代が夢を失うとともにその小説を本屋の棚で見かけることは、古本屋においてもほとんどなくなっていた。だから、こうして文庫本として再刊されたことを寿ぎたいと思うし、現代という拝金主義がまかり通り、モラルが失墜した時代にあって、精神の「自由」が風のように軽やかにページをわたっていくブローティガンをひもとくことは大いに意味のあることだと思う。読んでいると尻がうずうずとしてきて、どこか空の広い、海の青い場所に旅に出かけたくなるの... ...続きを見る

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2007/03/30 12:02
セネル・パス『苺とチョコレート』
 セネル・パスは1950年生まれの、キューバの新世代作家だという。原題は『狼と森と新しい人間』(1991年)で、邦訳の題は本書を基にした映画のタイトルに合わせたようだ。訳者は、原題の森は現在のキューバの混沌とした状況を、狼は主人公の一人、ホモセクシャルのディエゴを、新しい人間はもう一人の主人公で語り手でもある大学生ダビドを表しているのだろうと解説しているが、まさにその通りにちがいない。カストロが権力を掌握して以来のキューバの歴史については、一般常識程度の知識しかないほとんどの読者にとっては、饒舌... ...続きを見る

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2007/03/23 01:26
石垣りん『詩の中の風景ーくらしの中によみがえる』
 詩人石垣りんには『ユーモアの鎖国』(ちくま文庫)という名エッセイ集があるが、本書は(石垣りん本人も含む)53名の詩人の詩に短いエッセイをつけたもので、詩のアンソロジーとしてもエッセイ集としても楽しめる一粒で二度美味しい本だ。いや、二度どころか、詩とエッセイが共振し合って、余韻として、三度美味しい本だ。著者は、茨木のり子の詩「花ゲリア」にある2行、「思うに 言葉の保管所は お互いがお互いに他人のこころのなか」に共感しているが、選ばれた詩たちはどれも著者の心の中にある「言葉の保管所」に大切に保存さ... ...続きを見る

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 0

2007/03/22 03:00
高見順『今ひとたびの』
 タイトルは和泉式部の「あらざらん此の世の外の思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな」によるが、この和歌がそのまま小説のテーマでもある。しかし、それにしても、何とも曰く言い難い恋愛小説だ。左翼の非合法活動に加わっている学生である「私」は、友人が演出した素人劇団の芝居を観に行き、ハイドンのセレナーデとともに舞台に登場したひとの美しさに打たれる。運命的な出逢い。「私」はその日からその人への慕情を胸に深く秘め、左翼運動による投獄、その人の結婚、徴兵等々の運命の変転にもストイックに慕情を守り抜く。また、美し... ...続きを見る

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2007/03/19 01:34
ホフマン「黄金の壷」
 聖天祭の午後、大学生アンゼルムスは醜い物売りの老婆のりんごや菓子のかごに飛び込んでしまった。逃げるアンゼルムスの背中にむかって老婆が叫ぶ。「そうさ、走ってゆけー走るんだ、悪魔の餓鬼めーもうすぐガラスに閉じこめられるんだからねーガラスの中に!」何もかもうまくいかないアンゼルムスがと接骨木の木の側で我が身の不運を嘆いていると、澄んだ水晶の鈴の音が響き、見上げると金緑色に輝く三匹の蛇が枝にからまっている。やがてそのうちの一匹がアンゼルムスのほうに小さな首をさしのべているのが見えたが、その瞬間、アンゼ... ...続きを見る

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2007/03/18 11:45
竹西寛子『蘭ー竹西寛子自選短篇集』
 一篇一篇、ゆっくりと丹精に丹精を凝らして、慈しみ育てたような短篇たちだ。11篇のうち7篇には少年少女が登場し、彼らの視点で大人の世界(「大人の」と限定する必要はないのだが)がとらえられているが、そのことが作品に深い陰影を与え、余韻を深めている。少年少女たちは、目前の出来事を見聞きしながら、つねに敏感に何かを感じているが、言語化し得ないために、かえって存在のかなしみが際立つのだろう。たとえば「市」という作品では、少女が母に手を引かれて週に一度か二度出かける海辺の市の様子、そこで生活している人々の... ...続きを見る

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2007/03/18 04:03
シュニッツラー『夢小説・闇への逃走』
 「夢小説」の主人公は医師フリドリン。仕事も家庭生活も充実しているように見えるが、妻のアルベルティーネとは倦怠期にあり、お互いに若いころ好きだった者の話などを告白して傷つけ合っている。ある夜、友人のピアニストから不思議な秘密クラブの話を耳にしたフリドリンは、友人の危険だ、命の保証がないから止めるようにという警告に耳を貸さず、僧侶の仮装でクラブに潜り込むと、そこでは仮装の乱交パーティのようなことが行われていた。やがてフリドリンが会員ではないことが他のメンバーに知れることとなり、フリドリンの身に危険... ...続きを見る

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 0

2007/03/16 02:52
ネヴィル・シュート『渚にて』
 人類滅亡を描いた小説の中でももっとも感動的な一冊といえるだろう。第三次世界大戦が勃発し、中性子爆弾で北半球は壊滅し、死の放射能が徐々に南半球のオーストラリアに迫りつつあった。しかし、確実に迫り来る死の恐怖のさなかにあっても、最後の最後まで人々の生活は続くのだ。明日がないとわかっていても、庭に種をまき、春に芽が出て花が咲くのを楽しみにする。赤ん坊がいれば、健康を気遣い、成長を楽しみにする。作者の才能をもってすれば、阿鼻叫喚の地獄絵図を描くことはさほど難しいことではなかったはずだ。しかし、ネヴィル... ...続きを見る

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2007/03/15 01:07
小泉喜美子『時の過ぎゆくままに』
 食材もちがえば、味付けもちがう、また、盛りつけ方もそれぞれに工夫した12の小鉢料理、それらが贅沢に並んでいる様を思い浮かべてもらえればよいだろう。しかも、食材はフグや茸といった下手をすると命の保証も致しかねるものが使われている。もちろん、料理人が超一流だから命の心配はまずないが、この料理人、かなり人が悪く、料理を口に運ぶ客の耳元で毒についての話をして怖がらせることも忘れない。風俗小説風あり、推理小説風あり、SF小説風ありと、作者の才能とセンスがきらりと随所に光る傑作短編集だ。ロアルド・ダールを... ...続きを見る

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2007/03/13 11:28
メルヴィル『幽霊船』
 ある作品が際立って有名であるために、他の作品が顧みられない作家がいる。『白鯨』のメルヴィルなどはその一人だろう。このことはメルヴィルにとって残念なことであるが、ほんとうに残念に思うべきは読者であろう。何しろ「幽霊船(ベニート・セレーノ)」のような傑作を知らずにいるのだから。  1799年のこと、キャプテン・アメイザ・デラーノが率いる海豹船兼貿易船「独身者の喜び」号は、水を補給するために、チリの長い海岸線の南端にある無人島サンタ・マリーアに投錨した。その2日めのことである。一隻の帆船が湾に入っ... ...続きを見る

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2007/03/12 23:06
ウィリアム・S・バロウズ『トルネイド・アレイ』
 バロウズのいわゆるカットアップとかフォールドインというのがどのような手法なのか詳らかにしないが、本書に収録の短篇はブラックユーモアの毒におかされているというよりも、糞尿やゲロや腐乱などをつきつけてくるようでとにかくおぞましい。それをしてワスプに対する呪詛とばかり言い切れるものやらどうやらわからないけれども、「悪臭を放つ街路の果て」という掌編に「何だかわからんが、あえて言うならムカデと植物の中間だ。そいつが、やつの腸に根を張って繁殖してるんだ」とあるように、バロウズには人間が寄生虫だか何だかに支... ...続きを見る

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2007/03/11 03:08
G・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』
 「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生日祝いにしようと考えた」主人公は、昔なじみの娼館の女主人に女の子の斡旋を頼む。老人は半世紀以上も新聞社でコラムニストとして働きながらずっと独身を通してきたが、その表向きの顔とは別に、何百人もの女とベットを共にして来た強者であった。しかし、淫らな一夜になるはずだったその夜、彼は、臭化カリを混ぜたカノコソウで眠らされた14歳の裸の少女に欲望を覚えることなく、少女の寝姿を見ているだけで喜びを感じることができたのだった。少女の名前も氏素... ...続きを見る

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2007/03/10 01:16
Philip Larkin, Jill
 小説家というよりも詩人として知られるフィリップ・ラーキンの小説である。第二次世界大戦中のオクスフォードの学園生活を描いた青春小説ともいうべき小説で、戦後に登場したエイミスの『ラッキー・ジム』など、自分の居場所に違和感を覚えて(最近はこの言葉あまり使わなくなったが)反体制的行動をする主人公が活躍する小説の先鞭をつけたとも評されるが、作者はたとえば階級意識などを大げさに扱ったつもりはなかったと述べている。しかし、主人公ジョン・ケンプは地方の退職警官の息子で奨学金をもらってオクスフォードに入学したが... ...続きを見る

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2007/03/08 11:03
小沼丹『黒いハンカチ』
 小沼丹は作家としては寡作の部類に入る人だが、ユーモアとペーソスにあふれた後味のよい短編小説の名手である。その作品は現在文庫本でも読めるが、講談社文芸文庫なので、よほど大きな書店にでも行かないと置いてないだろう。  『黒いハンカチ』(最初は「ある女教師の探偵記録」という角書付きで連載されていたようだ)の主人公はA女学院のニシ・アズマ先生。学院のお気に入りの屋根裏部屋で独り午睡を楽しむようなとぼけた先生で、一度事件が起こるや、彼女の器量を三分の一割り引いてしまうという太い赤い縁のロイド眼鏡をかけ... ...続きを見る

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2007/03/08 09:46

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