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zoom RSS グレアム・スウィフト『ウォーターランド』

<<   作成日時 : 2007/03/02 19:28   >>

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 小説はスタンダールの昔から広い意味での「地政学」であった。土地の地理的条件や歴史的条件が人間とその生活に及ぼす影響が描かれ続けてきたのだ。その意味でも、イングランド東部の低湿地帯フェンズの過去と現在を重層的に描いた『ウォーターランド』は、正統的にして、本格的な小説である。グレアム・スウィフトの傑作であるばかりか、20世紀後半に刊行された英文学の珠玉の一冊だといえよう。
 52歳の高校の歴史教師トム・クリックは、妻メアリーが引き起こした嬰児誘拐事件が原因で、校長から暗に退職を迫られていた。しかし彼は教職に居座り、通常の教育課程を放棄すると、彼の一家が先祖代々暮らしてきた「ウォーターランド」、フェンズの240年に及ぶ歴史について、第一次世界大戦の傷痍軍人で水門の番人だった父と知恵遅れの兄ディックとの生活、友人フレディー・パーの水死事件、メアリーとの恋とセックスについて、ウナギの一生やビールの醸造について、フランス革命や核戦争について、現在から過去へ、過去から現在へと自由自在に行きつ戻りつしながら、言わば、歴史的事実と個人的記憶や推測の間を横断しながら物語り始めるのだ。それはあたかも、歴史教師としてのクリックが、歴史のあるべき記述の仕方を例証しているかのようでもあるのだが、そのようにして物語ることによって、次第にあぶり出されてくるのは他ではない、クリック夫妻が記憶の闇に葬ってきた殺人や自殺や堕胎や狂気でもあったのである。
(グレアム・スウィフト『ウォーターランド』新潮社)
ウォーターランド
ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

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